|
「いない?その引き出しにあるはずだが?」 「引き出しは開いておりました」 咲世子が周りを調べながら言った。 「開いていた?あの小さな体で開けたのか?」 よく開けられたものだと感心するが、開けたということは三体とも引き出しから出たということだ。なるほど、だから探しているのか。 「ロイド、発信機はつけていなかったのか?」 「着けてるわけないでしょ。昨日お会いしたときには用意もしてませんよ。あんな状態でおられるなんて想像もしてませんでしたし!」 あのサイズなら小型の、それも軽いものじゃないと無理だから、今用意している最中ですよ!と、文句をいうので思わず眉を寄せた。 「どうして事前につけなかったんだ?」 確かに昨日の今日なら難しいだろうが、アレは元々ロイドが作ったもののはずだ。どうして最初から組み込んでおかないんだ。 「事前って、どんな事前!?僕だって事前に知っていれば用意ぐらいしますよ!」 「確かにアレがこの部屋にあったのは不測の事態だったかもしれないが、作った段階で組み込むことは可能だったはずだ」 何故不測の事態を予想して先に手を回さないんだといえば、ロイドもセシルも、 咲世子でさえ驚いたような顔でこちらを見た。 「・・・ねぇ-------、きみ、もしかしてと思うけど、あのお三方を僕が作った小型のロボットかなにかだとか思ってないかな?」 「違うのか?てっきりロイド博士が作ったものを、誤って咲世子が持ち出したのだと思っていたが・・・では誰があれを作って、この部屋に・・・」 「あーもー君は本当に馬鹿なんだね。あんなに小さくて、しかも自分の意志で行動するロボットなんて、今の技術じゃ作れない。つまりあれは誰かが作ったものではないんだよ。大体、悪逆皇帝をあんな穏やかな性格になんて一体誰が作るんだい?」 「悪逆、皇帝?」 それは、あの大罪人の事だ。 白い皇帝服を身にまとい、人々を恐怖で支配しようとしたあの男の。 あれ?そう言えば、どうしてあれを見て皇帝だと思ったのだろう。あの大罪人と同じ格好だからなのか?頭を鈍器で殴られた感覚がし、視界がぐらりと揺れ、思わず足がふらついた。全身から嫌な汗が流れ、呼吸が荒くなるのがわかる。 悪逆皇帝は凶悪だ。 あんなに穏やかに話すこともなければ、こちらを心配するなんてこともあるはずがない。あるはずがないのに、どうしてそれを否定出来ないんだ? 「------、やっぱりおかしいわ。一度精神科のお医者様に見てもらったほうが」 「医者?私はゼロだ。精神科で診てもらうようなこと、あってはならない」 「何言ってるのさ、明らかにおかしいよ。いや、だいぶ前からおかしかったよ。きみはたしかにゼロだけど、ゼロである以前に------じゃないか」 何を言っているんだ?ゼロ以外に何があると言うんだ? 一体彼らは自分に何を見ているんだ? 「ロイド様、セシル様。今はお三方を優先うべきではありませんか?」 咲世子の言葉に、ロイドとセシルはそれもそうだと頷いた。 お三方。 アレがもし悪逆皇帝だとしたら、何故彼らは敬語で話し、大切なものを扱うように接した?ああ、そう言えば彼らは脅されたとは言え、悪逆皇帝に仕えていた。脅されていたというのが嘘なのか?では今も悪逆皇帝の?敵なのか、彼らは?いや、違う。彼らは敵ではない。だからこそ悪逆皇帝に仕えたのだ。そもそも彼らはどうしてゼロと親しい?いや、彼らだからこそ・・・?なんだ、解らない、何がわからないのかもわからない。 「ゼロ様、ここにお三方はおりません。別の場所ではありませんか?」 ゼロの様子がおかしいとみて、しばらく様子をうかがっていた咲世子だったが、事は一刻を争う可能性があると考えていた。 「いや、そこに、かごのまま入れたのは間違いない」 自分の記憶がよくわからなくなっているが、そのことだけは確信を持って言える。間違いなく、そこに入れた。何度も確認したのだ。 「かごですか?ここには何も入っていませんが」 「何も?そんなはずはない。かごを、昨日、咲世子が作った布団も、一緒にそこ、に入れた・・・?」 本当か?本当に入れたのか?俺の記憶がおかしいのか? 慌ててサイドテーブルに駆け寄ると、開けられた引き出しの中は、たしかに空になっていた。もし自力でここから出たとしても、かごと布団を持っていくのはおかしい。あのサイズでもゼロである自分が三人なら運び出すのは可能だが、体力のない彼が三人なのだから不可能だ。・・・体力が無い?いや、間違いなく体力がないといい切れるが、何故それを知っている? グラグラと揺れる視界で気持ちが悪くなる。 自分の記憶が信用できない。 そう言えば、そんなことをアーニャも言っていたな。 アーニャ?アーニャ・アームストレイム?元ナイトオブラウンズの?ゼロと接点など無いはずなのに、どうしてそう思うんだ? 接点がないはずなのに、どうして自分は彼女に関する記憶があるんだ? しかも、そうだこれは、まだ彼女がラウンズだった頃の・・・ 気持ちが悪くなり、思わずその場に膝をついた。 「私は・・・僕、は・・・」 セシルが駆け寄り、こちらの顔を覗き込む。 「-----の記憶違いかもしれない。セシルくん、ここは任せるよ。僕は別の部屋を探す。せっかくまたお会い出来たのに、また亡くなられた姿を見るなんて嫌だからね」 咲世子もそれに従い、部屋を後にした。 |